テスリン川後半は楽しい
本ブログ記事は以下の2本の動画(エピソード4と5)に関連しています👇
3本目の「ユーコン総集編(前編)」はテスリン川を総括するダイジェスト版です。
ユーコン編 動画 Ep.4
ユーコン編 動画 Ep.5
総集編(前編)
前回記事(本編①)はこちら👇
グレイリング三昧の3日目
テスリン川の3日目
パドリングを極めし女
やまとさんとガクのコンビが漕ぐカヌーが、なぜかあっちゃん&みやちん(各自のプロフィールは過去記事へ👉こちら)コンビのカヌーに追いつけないという状況が頻発。ガクはパワー系なのでパドリングは強い。いくらやまとさんが不慣れだったとしてもこんなに追いつけないのはおかしい。 確かに前を行く二人は器用だが、どうしても納得できない距離の開きが生まれる。この時は、やまとさんのパドリングが改善すれば追いつけるのではないかと思ったりもしたが…
テスリン川へと漕ぎ出してから3日目にもなると、川の状況などにも慣れてくる。そうなると、どうしてもやまとさんのパドルの回転率の低さに目が行ってしまう。背後から見ていると、無駄な筋力を使いすぎているせいで効率が悪く、体力も削ってしまうのではないかと心配になる。テコの原理で「骨で漕ぐ」という古武術の師範のような謎めいたアドバイスを投げかけてはみるのだが、抽象的な表現が単なる謎かけのようになってしまう。
それでも地道にパドリングについて考えるやまとさんの真面目さもあって毎日確実に上達していった。鬼気迫る表情で食い入るようにあっちゃんのパドリングを見つめるやまとさんに、一抹の恐怖を覚えたあっちゃんには気の毒だったが、怪我することもなく見違えるように上達したのは素晴らしい。さすがは黒部秘境の女とでもいうべきか。パドリング技術の向上は、水量の多いユーコン川への合流前にどうしても達成しておきたいことだった。にもかかわらず、相変わらず進みの悪いこちらのカヌーには別の問題があるとしか思えない。
カヌーの前後バランス(漕ぎ手の体重差)に注意
2艇の距離が開くのは、体重もそうだがこちらの荷物が重いせいだと疑い始めたやまとさん。試しにやまとさんがあっちゃんと交代して、あちらのカヌーの様子を確かめてくるとのことで、お昼休憩を挟んでペアを交代してみることになった。背後から見たあっちゃんのパドリングは力強いのだが、ガクはある違和感を感じ始めていた。バウマン(船首の漕ぎ手)のパドリングが良くなったはずなのに、推進力の点では全く改善されていない。荷物の重量差もそれほど影響があるようには見えなかった。
なるべく論理的に頭を整理してみたところ「もしかしたら前後バランスの問題か?」 という疑問にたどり着いた。あっちゃん&みやちんコンビに比べてやまとさん&ガクのコンビはあきらかにバウマン(船首の漕ぎ手)とスタンマン(船尾の漕ぎ手)の体重バランスが違う。ガクとみやちんとの体重差は20kgはあるだろう。毎朝出発前に左右バランスの確認は怠らなかったのだが、前後に関しては全くノーマークだった。
緊急で着岸して荷物の前後バランスを調整してみることにした。着岸した場所にはビーバーにかじり倒された木が横たわっており、その有様には皆が驚愕した。カヌーのバランスを直感的に調整し、ビーバーの余韻とともにカヌーを漕ぎ出すと、今までとは全く違う感覚を覚えた。漕ぎ手のパワーがそのまま推進力へと変換されているようで、滑らかに前進していく様子がイメージできるうえ、実際に速度も上がっている。分かってしまえば何でもないことだが、素人集団の我々には目から鱗の大発見だった。
グレイリング釣り
パドリングにも慣れてきた頃、テスリン川には難しい個所が点在するようになり気持ちを落ち着けながら進む。前回の釣り休憩で学んだのは、魚の居場所が特定できないような本流ではなく、支流や本流への流れ込み付近を狙うべきではないかということ。地図で絞った我々は、狙った場所にカヌーを着岸して竿を出してみることに。
最初にガクが30センチほどのグレイリングをキャッチ。6グラムほどの虹色のスプーンにヒットした。もちろんユーコン準州の法律にのっとりバーブレスのフックにしている。ユーコン準州では釣りに関してかなり細かい規制が設けられており、持ち帰れる量や大きさ、家にキープできる魚の数など、実際に厳しく取り締まりが行われるらしい。ライセンス無しで釣っていると、目の前に着水した水上飛行機から現れた取締官により逮捕ということもあるらしい。水域に関してもルールが細かく分かれており、テスリン川にはテスリン川のルールがあるので、「Yukon Fishing Regulation」等の検索用語から事前に情報を得ておくと良い(一応リンクも貼っておく👉リンク)。
フィッシングライセンスを購入した際にもらえる冊子と同じものがダウンロード可能だが、いきなり本文に飛び込むよりもテスリン川やユーコン川を目次で探してから該当ページを見るのが探しやすい。魚を確保可能な数量に違いはあるものの、大きさなどについてはGeneral(一般的)なルールが適用されていたような記憶がある(ただし要確認)。
それぞれが自由なスタイルで釣りを楽しんだ。ガクがスプーンを使ったルアー釣り、あっちゃんはスピナー、みやちんはカディスパターンでのフライフィッシング、そしてやまとさんは黒部源流の毛鉤を使ったテンカラ釣り。この広い川でテンカラ釣りというのは驚いたが、この日は各自が3~4匹程度のグレイリングと出会うことができた。キープしたのは30センチ前後の6匹だったと思う(各自が1~2匹程度なので問題なし)。釣った魚はカヌーに乗る前にはらわたを抜いて鱗を処理したのだが、鱗の多さには驚いた。グレイリングはサケ科カワヒメマス属の魚で、サケ科の魚に鱗が多いというイメージは無かった。その背びれの長さと雑魚っぽい立ち位置が、日本の清流域で言うとオイカワに近いかもしれないと思った。
グレイリング料理
焚火缶に入れた処理済みの魚をクーラーボックスにしまって釣り場を離れる。釣った魚を直接カヌーに置くと匂いが付いてしまうと聞いていたので気を付けて扱ったのもあるが、日当たりの良い中を何時間も移動するので当然の処置でもある。
キャンプ地に到着すると、テントや調理の準備をしてから水際で寒さに耐えながらグレイリングを捌いた。調理に関しては「水曜どうでしょう」のユーコン編で登場したグレイリング飯の印象が強烈だったため、どうなることかと思っていたが、結論から言うと「意外と普通の川魚」だった。アウトドアナイフで川魚を三枚におろすのは難易度が高かったが、生魚の匂いで熊が来ないかという緊張もあって、スピーディーに作業を進める。
グレイリング料理のお品書きはレモンバターソースのムニエル、揚げ出し、ホイル焼きの3点。この中ではホイル焼きが一番美味しかったかもしれない。ムニエルも悪くはなかったが、揚げ出しはあんまりだったかな。川魚特有の臭みがあるため、レモンや野菜などの消臭効果のある食材と合わせるのが良さそう。揚げ出しには魚介のだしを使っているため、臭みを増長させた感がある。それと、身に水分が多い印象があったので、油で揚げる料理には向かないと感じた。そもそもアウトドアなのでしっかりした水抜きができない上に、十分に油を高温に保てないというのもある。
「水曜どうでしょう」のグレイリング飯に関して言えば、鯛めしのような感覚で米と一緒に炊き込んだのでは、それは生臭いだろうなと想像がつく。しっかり処理したうえで酒やショウガなどの臭み抜きができていれば結構おいしい炊き込みご飯ができるかもしれない。個人的にはグレイリングの臭みはヤマメの臭みに似ていると感じたので、煮つけや塩焼きというのが王道かもしれない。
テスリン川の最後は奇跡のキャンプで締める
テスリン川の4日目(テスリン川最終日)
バウマンとスタンマンの交代
漕ぎ始めて4日目の朝が始まり、しばらく難しい流れはなさそうだということで、バウマンとスタンマンを交代するあっちゃん&みやちんコンビ。事故こそ起こさなかったが、このチャレンジにより後に問題が起こる。ところで、バウマンとスタンマンというのは役割や使用するパドリング技術がそれぞれ異なっており、お互いの声掛けや事情を汲んで動くといった予測力がスムーズなカヌー操作には大切な要素となる。
やまとさん&ガクはあっちゃん&みやちんよりも10歳ほども年輪を重ねていることからも、相手に思うところがあってもある程度おおらかな気持ちで見守るというか、面倒なことを掘りたくないズボラな中年というステータスを確立しているのだが、元気がにじみ出ているあっちゃんは、背後で漕ぐみやちんに諸々の不満をぶつけていたようで、このポジション交代はなかなか面白い状況を作ってくれた。
お昼休憩の時に、あっちゃんが「みやちんゴメン」と突然の謝罪を始めるので、どうしのだろうと思ったら、スタンマンの気持ちが分かったあっちゃんが、色々言ってゴメンナサイと自己反省をしたらしい。なんとも素直な様子に中年組は大爆笑。あっちゃん曰く、「スタンマンがあんなに難しいものだと思わなかった」ということだった。この後、せっかくスタンマンを経験した女性がいることだし、少しの間、女性艇と男性艇に分かれてみようということになった。カヌーのコントロールこそままならなかったが、和気あいあいと盛り上がる女性艇と、必要なこと以外は発言しないお通夜のような男性艇とのコントラストが面白い。あらためて男女というのはバランス良く作られたものだと思った。
ちなみに「チャレンジによる後の問題」というのは船酔いのことである。みやちんはとても酔いやすい体質で、そういえば北岳を登るために駐車場から登山口に向かうシャトルバスに乗っていた時、運転手にお願いして途中でバスを下車したみやちんが青ざめながら茂みに消えていったことを思いだした。歩いて追うという約束により登山口で1時間近く待たされた記憶がある。この日カヌーを漕ぐみやちんの目の前には広大な水面が広がっていたのだが、どうやら酔いやすい人の脳は、視界に入る水の動きをダイレクトに受け止めてしまうようで、平衡感覚がおかしくなってしまうようだ。しかし、河原に倒れて死亡中のみやちんを、めでたくスケッチブックに収めることができたアーティストやまとけいこはご満悦だった。
奇跡のキャンプ地
このキャンプ地はガイドの櫛田さんからあらかじめお勧めされていた場所で、テスリン川からユーコン川へと合流するほんの十数キロ手前にあり、我々の行程にも合致していたのもあって、どうしても泊まりたい場所だった。中州の先端という幸いにも分かりやすい位置にあるため、見つけられないということはないだろうが、中州の左を行くか右を行くかで結果に大きな差が出ると思われた。川の様子にも慣れてきた我々は迷わず右からのアプローチを選択し、結果的に大正解。もし左を選んでいたら停まれないか、もしくは非常に苦労していたかもしれない。
このキャンプ地は中州の下流側の先端に位置するので、左右からの大きな流れに包まれているような感覚になるうえ、西側に面しているため日没が極上の景観を与えてくれる。日没といっても白夜のため延々と沈まない夕日を眺めることになり、赤く焼けた空と西日が反射してキラキラと揺らめく水面がこの上なく美しい。強い流れの中のため巨大なグリズリーですらここまでたどり着くのは至難の業だと思われ、野生動物の脅威から隔離された我々は心も体も緩んで酒がすすむ。こんな楽しくて快適な野営は、人生を振り返っても他には思い当たらない。まさしくテスリン川を締めくくるに相応しい、自然からの最高の贈り物だった。
明日はユーコン川へ合流
この記事ではテスリン川の後半部分(3~4日)について紹介した。1~2日目の苦しさや緊張感と比べるとテスリン川を大いに楽しんでいたことが思い出される。テスリン川の締めくくりとなった奇跡のキャンプ地は、丁度Carmacksまでの半分の距離にあり、それは旅の折り返し地点であることを意味していた。次回の記事ではとうとうユーコン川へと合流し、ユーコン川唯一の観光地ともいえるShipyard Islandを訪れたり、ユーコン川の雄大な流れに圧倒されたりする様子をお届けしたい(いつになるかは明言できないが、なるべく早く執筆したいとは思っている…)。
それではまた会いましょう。
ガク
★がくんち – Gaku’s Base★
ユーコン編 動画 Ep.4
ユーコン編 動画 Ep.5
ユーコン総集編(前編)
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